「日露に本質的差異、領土交渉は困難」 モスクワ国際関係大のドミトリー・ストレリツォフ東洋学部長

 日本とロシアの平和条約交渉で明白な進展が見られないのは、平和条約を締結する目的が両国で本質的に異なっているためだ。

 日本にとり「北方領土問題」は国家の威信に関わる課題で、その解決は軍国主義の負の遺産を克服して“普通の国”の地位を取り戻すことと結びついている。

 一方のロシアは、自身のアイデンティティーを(第二次世界大戦の)戦勝国という偉大さの中に見いだそうとしている。だからこそロシアは、南クリール諸島(北方領土のロシア側呼称)の帰属の移転を含めた第二次大戦の結果を無条件で承認するよう日本に求めているのだ。

 日本にとって重要なことが大戦中に失ったものを取り戻すことであるならば、ロシアにとってのそれは(大戦の結果を)法的に基礎付けることだ。まさにこのことにより、プーチン氏の「無条件で平和条約を結び、国境画定の問題はその後で解決しよう」との提案を説明することができる。

 ロシアは「平和条約締結後にソ連は歯舞(はぼまい)群島と色丹(しこたん)島を日本に引き渡す」と定めた1956年の日ソ共同宣言により、第二次大戦に関して未解決だった問題は解決されたと考えている。

 しかし日本は、ロシアを敵対国とする米国と安全保障上の協力を強化し、米軍に基地用地を提供している。ロシアは「島を引き渡せる条件が満たされていない」と考えている。こうした状況のために、両国の指導者が平和条約を結ぶ必要性に言及しながらも交渉が空転を続けている。

 両国の交渉では、いかなる本質的な前進も期待することができないだろう。両国の世論はともに妥協に否定的だ。安倍氏という成功した指導者であっても、「固有の領土の返還」という主張を捨て去ることは、政治的な自殺を意味する。

 一方のロシアも、日本への領土の引き渡しに同意するかは疑わしい。国内政治上の損失が、得られる利益をはるかに上回るためだ。

 象徴的な行動を好むプーチン氏は、日本と平和条約を結んで歴史に名を残そうと考えているかもしれない。大戦から75年となる今年に平和条約が結ばれれば美しいだろう。だが、私の見解では、平和条約交渉を停滞から救い出すことは不可能だ。両国の基本的な立場が本質的に異なる以上、プーチン、安倍両氏という権威を持つ指導者でもそれを調和させることはできない。(聞き手 小野田雄一)

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 ドミトリー・ストレリツォフ ロシアを代表する日本学者の一人。専門は政治学。モスクワ大学付属アジア・アフリカ諸国大学で歴史学と日本語学を専攻。ソ連科学アカデミー東洋学研究所修了。歴史学博士。56歳。

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